上野村
上野村は、人口1,400人弱であり、他町村との合併の道を選ばなかった山間の小さな村です。
村の高齢化率は約42パーセントと高いのですが、最近の「ユーターン・アイターン者」の転入増加により、少しずつ減少している傾向があります。
村の面積は181.86平方キロメートルと広大ですが、大部分は森林であり、その割合は9割を超えています。
村の中央を清流として名高い「神流川(かんながわ)」が流れ、その川沿いに比較的大きな集落が点在しており、支流にもいくつかの集落があるのですが、いわゆる限界集落と呼ばれる状態に近い集落があります。
平成16年3月に群馬県による事業で完成した「湯の沢トンネル」ができるまでは、村の交通は藤岡市方面が主要なルートでしたが、開通後は下仁田町、富岡市方面へと変わってきました。
それにともない公立藤岡総合病院などへ通院していた患者さんも、富岡総合病院などを利用する方が多くなってきたように思います。
そのような山間の住民が日常生活のなかで、まず第一に頼りにしているのが、平成5年に建てかえられた「へき地診療所」であり、点在する集落から診療所へ通院する患者さんのため、村では以前から無料の「患者輸送車」を導入し、その運行方法をデマンド方式として、患者さんの利便性を考慮した運行を行っています。
診療所のある「乙父(おっち)地区」は、平成元年に建設された「いこいの里(現、高齢者生活福祉センター)」があり、そこで歳をとっても自立できている15組のお年寄りの集合生活が始まったのですが、そのことを皮切りに、保健・医療・福祉・介護の拠点地区として一層の整備が進められ、平成21年に新しく介護福祉施設が建設されディサービス事業はそのままに「グループホーム」、「小規模多機能型居宅介護」などの新たな事業が展開されています。
現在は老朽化した「いこいの里」を取り壊し、新たな「生活支援ハウス」建設の準備を進めています。この建設計画により、上野村の保健・医療・福祉・介護のそれぞれの分野の整備は、一段落することになります。
戦中戦後、そして高度経済成長などの日本の激動期をたくましく生きぬいた高齢者の方たちが、上野村で安心して生活しつづけられることを念願し、今後も関係職員、関係施設は多方面に連携して、しっかりと支援していきます。
このような独特の計画で進めてきた上野村の施設、または行政の姿勢などをそれぞれに感じていただいて、今後の学業・進路にいかせていただければ幸いです。
私が勤務している上野村へき地診療所は、人口約1,400 人の山村にある唯一の医療機関です。下仁田・富岡・藤岡などの2次医療機関へは車で30 分~ 90 分かかるため村内の多くの患者さんが生活習慣病・慢性疾患の管理のために“かかりつけ医”として診療所を受診します。また、外傷や内科救急疾患の方が受診することも多々あります。患者さんが病状の変化を訴えた際には、問診・身体所見や限られた検査から病態を把握し、本人や家族の意向を汲み取りながら方針(当院での精査・治療、病院受診等)を決定する必要があります。その他、学校医としての業務、介護保険に関連する業務など、病院勤務では経験することのない役割も担っています。診療所勤務では、病院での専門分化された業務とは異なる、やりがい・面白さ・難しさを日々感じることができます。
診療所見学の際には、地域における病院と診療所との役割の違いを感じとり、数年後に控えた医師としての勤務・地域医療連携などに役立てていただければ幸いです。また、地域での医療を志す先生が一人でも多くなることを願っています。