希望の家療育病院
桐生厚生病院の地域医療体験の一環として、群馬大学医学部の学生が当院見学に見えました。2時間足らずの見学でしたが、まだ医学部入学間もない新鮮な学生には、重症心身障害児施設の重い障害児(者)、情緒障害を持つ子供達の存在を目の当たりにして、これまでの3回の経験では、驚きの感動で受け止められたようでした。特に重症心身障害児(者)は外見的にも障害の重さが実感されるので感動は大きかったと思います。言葉が通じない寝たきりの障害者には、どの様に接して良いかすら分からない戸惑いも感じたと思います。しかし重症心身障害児(者)に接すると、彼らにも我々健常者と同じ重さの生命があり、障害の重さに関係なく保護されるべき存在であり、充実した日々、豊かな人生を築く権利のあることを知ります。
さらに彼らは既存の社会福祉制度の恩恵を受けるだけでなく、その真剣に生きる姿に健常者は感動し、生きる勇気をもらいます。哲学者で我が国の障害者施設の草分け的存在の近江学園の創立者である糸賀一雄氏は、「彼らに光を」ではなく「彼らを光に」と言って有名ですが、障害者の存在自体が社会に寄与するものがあるという視線も忘れることはできません。重症心身障害児(者)は呼吸嚥下障害、体温維持機能障害の様な生命維持機能障害の他にてんかんなどの医療的合併症を持つ者が多く、施設は医療との一体化が不可欠です。そのために多職種の職員が協力して活動している姿に、学生は将来自分が進む医師の活動範囲に新たな広がりを感じたかも知れません。入所者は5歳未満の幼児から70歳を越える高齢者までおり医療の内容も多岐に亘ります。また国の重い障害児でもなるべく親元で育てるとの考えには賛成ですが、その結果障害児外来や親の介護疲れを癒すための短期入所制度の充実など、独自の社会的需要に応えるべく努力を怠ることはできません。
今日進歩した未熟児医療の陰で、助かった超未熟児が重い障害で退院できず、新生児集中管理室(NICU)のベッドの回転に支障を来す病院が増えて問題になっています。
この度ベッド回転をよくする意味で当施設に15床の増床が認められました。
今後医療の進歩の中で、高齢者や病気や障害を抱えながら生きる所謂社会的弱者への福祉・医療の重要性は増えて行きます。これは決して他人事ではなく、身近な人や自分自身の問題でもあります。今回の見学が将来医師として活躍する学生に役立つものになってほしいと願っております。
当法人では付属施設として北関東アレルギー研究所があり、障害児(者)や一般の方のアレルギー診療とその研究を行っています。
アレルギー性疾患は全人口の3分の1の方が罹患し、生活の質すなわちQOLに対する影響はかなり大きいと言われています。また、気管支喘息やアナフイラキシーでは、不幸な転帰をとることもあります。さらに、アレルギー疾患は地域の特徴があり、群馬県では花粉症等の罹患率が高率です。全国一律に疾患を考えるのではなく、地域における特徴を踏まえて検討する事が必要であります。また、高齢化や少子化、さらには家屋構造の変化や環境因子の変化はここ10数年、目をみはる程でアレルギーへの影響が考えられます。世界的に見ても、多くの国においてもアレルギー疾患の増加がみられました。その原因を解明するために、疫学的手法、環境因子を検討する手法、さらには人の体の変化(免疫学的手法など)を検討する手法などについても検討しています。
アレルギー疾患は、障害児(者)の方々にもQOLの面から影響があります。QOLの低下に十分気を配ることも必要です。このセミナーを通じてアレルギー疾患のみならず種々の疾患の多様性とそれに対する的確な治療への姿勢を学んでいただけたことと思います。
重症心身障害児(者)施設を初めて見学され、驚きと共に衝撃を受けた方がいらしたと思います。様々な原因で脳に重い障害を受け、今の制度では、終生施設内生活をおくり、施設内生活がその人の全人生となってしまう方も多くいます。我々施設職員は、多くの専門スタッフと協力し、重症児(者)がこの施設で暮らし、良い人生だったと思えるように日々、「より良い表情を引き出す」ように「療育活動」を提供しています。
今後も、様々な「障害児(者)」を取り巻く、「福祉・医療」の連携について、常に念頭においた「医療人」になられる事を期待しています。