公立富岡総合病院
医学部卒業後、どのように医師としての修練を積んでいくか。その初期段階の標準化とレベル向上をめざして臨床研修システムが構築されてからすでに10年を越えました。標準化といっても病院によるばらつき、あるいは個性はもちろん残っています。その個性が自分にとって合っているかどうかは研修先を選ぶ場合にもっとも大事なポイントとなります。種々の機会に現場を訪ねて自分の目で見て選ぶことが肝要です。群馬県地域医療支援センターが開催する地域医療体験セミナーはその機会を与えてくれるすばらしい企画です。県内の研修病院を見て回ることで、自分の求める研修ひいては自分のやりたい医療が見えてくるかもしれません。
地方の病院は都会の大病院の小型版をめざす、という考えはいまではなかなか通用しなくなってきました。脳外科や心臓外科はセンター化されていき、一般的な手術を行う病院も集約されていこうとしているように思われます。それでも地域密着型の病院を必要としている人は数多くいます。地域包括ケアという国策の枠組みのなかで医療や介護がどのように人々に提供されていくのか。本当に必要とされているのは何なのか。県内各所の現状を見聞して、医師としての自分の将来を考えるきっかけにしてもらえればと思います。
はじめに、地域医療をになう医師育成のため日々活動を行っている地域医療支援センターの片野センター長、田村先生、鎌田先生はじめスタッフの方々に敬意を表したいと思います。先生方の企画のお陰で、多くの医学生の皆さんが様々な臨床の現場を、自らの目で見て体験して考えることが出来ますし、私共の病院も学生さんを通して実情を振り返ることが出来ます。
私の学生の頃(昭和50年頃)には大学病院でのポリクリや、担当教官の出張病院に一緒に出向き、1~2時間病棟見学をすることや春休みや夏休みに“旅行”をかねて地方の病院で1週間程度の実習をすること位が、臨床の現場の雰囲気を感じることが出来る少ないチャンスでした。そう思うと今の学生の皆さんは大変恵まれていると感じます。
毎年医師は増え続けていますが、高齢人口の増加と、医師の専門分化の方が早くて、医師不足という声が絶え間なく聞こえてきます。一方で一般の人たちが医療に望むものは、マスコミやネット情報の氾濫に伴い、とどまるところを知りません。これらの要望に応えるために、いったいどれ位、医師の数が増えれば解決するでしょうか?
医師の数が増えれば解決すると考えている人は、実は少数なのです。では数でないとすると、何をすることで解決することが出来るでしょうか?
残念ながらこの答えは、その人の置かれた立場や環境で全く違うのです。例えばその人が医療に資金を提供する立場か、提供を受ける側かでも答えは変わってしまいます。大切なのは日本人が、日本の医療をどのような形にするのか?という問いにコンセンサスを出すことです。2025年問題という言葉、Japan Syndromeという言葉をご存知でしょうか? これらを解決していくために、現在のように力と数で強引に持っていくことは不可能と考えます。少し遠回りでも先に述べた問題にコンセンサスを得る事にこそ、最大のエネルギーを使うことが大切と思っています。最後に興味深いグラフを提示します。平成27年度の群馬県内の研修医1年目106人の所在について、縦軸に人数、横軸に前橋からの距離でプロットしてみました。結果は距離の2乗に反比例でした。皆さんはこれを見てどのような感想をもたれますか?これからどうしますか?是非一緒に考えながら、これからの医療について語って行きましょう。