西吾妻福祉病院
当院は、公設民営の病院として公益社団法人地域医療振興協会が指定管理を受託。開院当初は小児科、整形外科、循環器科、脳外科の常勤医師も含めた11名の医師が在籍し、へき地の2次救急病院として、観光客を含めた救急医療に対応することを使命として2002年2月に開院している。地理的には群馬県北西部に位置し、草津温泉を代表とした有数の観光地に囲まれ、年間600万人とも言われる観光客が訪れる地域のへき地拠点病院である。
しかしながら、開院して10年以上が経過した今では、どこの病院でも起こり得る医師不足の問題に直面しており、現在は内科、外科、産婦人科以外は非常勤の医師となってしまった。
それでも、西吾妻地域の実に6割~7割にあたる年間900件を超える救急車を受入れている。 軽傷から重症まで、様々な症例の救急患者に内科、外科の医師が対応している。専門科を超えた症例の方が多く、医師たちは日々『総合診療』を行っており、迅速にトリアージして、当院での治療が困難である患者は、日中であればドクターヘリで搬送し、夜間、悪天候の際には救急車での搬送を行う。高次病院までヘリで片道15分程の距離も、救急車での搬送となると2時間近く掛るところが多く、それが命の境目にならないよう、全力で対応している。
外来診療では、当地域のへき地支援病院として総合診療を主体とした診療を行っており、診療科に係らず様々な症例の患者が来院するが、初診から入院、時には手術、そして退院まで、一人の患者を最初から最後まで診療できる。患者との距離が近いばかりか、家族の背景、生活環境まで見えてしまうので、『家族』を診察する事も多く、それが患者情報となり、入院加療に役立つこともある。まさに『プライマリケア』と言える。
その様な当院では、医師たちの診療科の垣根は必要無い。一人の患者の症例を医師全員でカンファレンスを行い、当院で完結できる症例については入院加療し、専門的な診療が必要な場合には、他の医療機関へ紹介して病病連携を行っている。
また当院は、郡内唯一の分娩施設として産婦人科診療も継続しているが、最大三人いた産婦人科の常勤医師は、現在一人になってしまった。年間120例程の分娩件数ではあるが、里帰り出産が増えており、非常勤医師の支援は不可欠で、県内外を問わず支援を要請し、24時間365日、分娩に備えて、全スタッフが協力して安全安心な出産をサポートしている。
緊急時の帝王切開手術の際には、産婦人科医1名以外は専門外の医師と助産師、看護師がそれぞれの役割を担当して対応している。このような病院は、全国的にも珍しいであろうが、診療科の垣根が無い当院ならではのチームプレーとも言える。
地域の拠点病院であることから、居宅介護支援や、訪問看護ステーション、通所リハビリテーションも併設し、在宅医療にも力を入れている。訪問リハビリも行っており、退院後の継続した医療支援として、当院のPT、OT、STが訪問して、担当制で各家庭を訪問する。これもまた当院の特徴の一つと言える。
地域に何を求められているのか、時代が変わればニーズも変わる。敏感にアンテナを張って、地域に必要とされる病院である事を心掛け、これからも地域医療に貢献する当院でありたい。
西吾妻地域は、高齢化、人口減少が県内でも進んでいる地域の一つです。そして医療や介護のリソースは中心部よりも恵まれていません。また、カバーする面積が広く非効率であるというデメリットがあります。そのような地域でも病院、診療所、介護施設などが連携し工夫すれば、何とかなるものです。当然スタッフ一人ひとりの能力の幅広さがポイントとなります。当院に実習に来られた学生さんが、いろいろな場面で実習することで、そういうところを感じて、将来こういう場所で働いてみたいなと思ってもらえる様に、セミナーに参加しています。
当院では、住民の生活を考えた医療を実践しています。老々世帯で夫を介護している妻が転んで腰を痛め、「トイレに行くのがやっとだ」と、病院を受診したとします。診察の結果、幸いどこも骨折がなかったという場合、単純に「入院にならなくてよかったですね」と喜べるでしょうか。家に帰っても誰が食事を作り、夫の介護をするのでしょうか。
この場合、我々は治療のゴールを、『痛みが和らぎ継続して夫の介護ができる』ということと設定します。当然、自宅では買い物や家事ができなくなるので入院し、鎮痛薬やリハビリテーションを行います。夫は、レスパイト入院、あるいは介護施設へのショートステイが必要となります。リハビリスタッフ、相談員(メディカルソーシャルワーカー)、ケアマネージャーなどと素早く連携することが求められます。日頃からスタッフ間の良好なコミュニケーションをとっていないとなかなか円滑にことを進めることが出来ません。お互いの仕事の内容について尊重し理解し合うことが信頼を深めることにつながります。
医学生の皆さんは、将来どんなフィールドで働くのか日々考えていると思います。西吾妻福祉病院で、地域医療の現場を体験してはいかがですか。