公立館林厚生病院
医学生の皆さん、高校生の皆さん、群馬県・群馬大学が主催する地域医療体験セミナーに参加していただきありがとうございます。また、公立館林厚生病院の実習・見学に参加していただいた皆さんには、病院を代表してお礼申し上げます。
さて、皆さんが一人前の医師として活躍する2030年頃の医療はどのようになっているでしょうか?皆さんの多くは、卒後10年前後になります。サブスペシャリティーの専門医を取得し、診療・手術の責任者になり始め、最も成長の著しい時期に相当しているでしょう。人によっては博士号を取得し、海外留学から帰国し、自分の実力で研究費を獲得でき始める時期かもしれません。技術革新はますます進み、ロボット手術、従来は手術治療しか手段のなかった弁膜症に対する血管内カテーテル手術、AIによる画像診断や臨床診断など、様々な技術革新が進むでしょう。また、2018年のノーベル賞受賞者である本庶先生が講演されていたように、癌が慢性疾患としてコントロール可能な疾患になる時代の幕開けになるかもしれません。実際、20年前には不治の病の代表格であった白血病は、現在では相当にコントロールできるようになり、肺癌より5年生存率が上回るようになりました。
一方、2030年頃は社会がますます高齢化すると同時に、人口減少が加速します。重要な点は、20歳から65歳までの生産可能年齢人口が減少することです。これは、医療費、年金、介護保険などの社会保障費の原資の大きな減少を意味します。さらに、日本では女性の平均寿命が男性のそれを7~8歳上回っています。男性が収入の主体となっている家庭が多いため、夫が先に亡くなった場合、受給される年金額が少ない配偶者である妻が残されることになります。すなわち、一人暮らしの貧しい女性が増える事態となり、「高齢化社会」とは単なる「高齢化」だけではなく、「貧困化」も伴うことになります。そのため、介護難民や介護離職も大きな社会問題になっているでしょう。
2030年は、このような2極化した社会像を呈するのではないかと思います。若い皆さんは前者の世界で仕事をしたいと思うかもしれません。しかし、国の財政から、それが叶うかどうかはわかりません。私は、皆さんが二者択一をするのではなく、二つの世界を結び付け、相互に補完するような仕事をしてほしいと願っています。新たなテクノロジーは現在の医療体制の革新や医療費の削減に寄与するかもしれません。また、世界でもまれな高齢化社会での試みは、世界のどこにもない新たな社会制度、テクノロジー、ビジネスチャンスを生み出すかもしれません。
若い皆さんには、自分の興味を狭めることなく、あらゆることに関心を持って貪欲に学び、そして、自分なりに考えることを忘れないでほしいと思っています。地域医療とは、それを考えるための生きた材料が豊富に揃っている場所です。